邦画『切腹』のあらすじ・キャストからのおすすめ度
邦画「切腹」の前半は斎藤を演じる三國連太郎の静かな演技がとても光ります。そして仲代演じる半四郎との静かなる戦い、千々岩と半四郎の関係が明かされるまでのまったく動きがないストーリーがたまりません。
このまま静かに切腹して果ててしまうのかと思う半四郎ですが、切腹の座で出した介錯人を指名するやり取りで反撃に出ます。
ここからの斎藤の表情の変わり方、井伊家を守るために非情な決断を下すまでの三國の演技力は見る者を圧倒します。ただの悪役ではない、良心の呵責を抱きながらも自分の背負った職責と価値観を守るために本当の悪役になる瞬間の三國の表情は見逃せません。
最大の見どころは、仲代の殺陣です。十数名を相手にテレビの時代劇のようではなく、長い時間をかけて繰り広げられる命のやり取りは圧巻です。BGMも最小限にとどめられ、三味線のソロだけなので演者の気合の声がダイレクトに劇中に響くあたりも演技のリアリティを高めていると思います。
大立ち回りを楽しむまでの静かなる戦いを味わいながら、仲代の一世一代の殺陣を楽しむのがおすすめです。
邦画「切腹」の作品情報・キャスト
題名:「切腹」(1962年)
監督:小林正樹
脚本:橋本忍
原作:滝口康彦「異聞浪人記」
音楽(主題歌):武満徹
キャスト:仲代達矢, 岩下志麻, 石浜朗, 丹波哲郎, 三國連太郎
「切腹」あらすじ
江戸時代初期、多くの藩が改易になる中で江戸市中は多くの浪人であふれていました。そんな中、譜代井伊家の江戸屋敷を安芸広島福島家元家臣、津雲半四郎と名乗る老浪人が訪ねてきました。彼は門前を借りて切腹したいというのです。
当時、門前で切腹したいという浪人が後を絶たず、大名旗本の多くはお金を渡して追い払う状況でした。いわゆる「門前借り」という小銭稼ぎの方法だったのです。 半四郎も同じ輩と思った井伊家の家老斎藤勘解由は、先日行った門前借りに対する過酷な処置を彼に話します。
千々岩求女という若い浪人は、門前で切腹したいと申し出た浪人が仕官されたという話を聞いて同じように機会をうかがったのでした。斎藤は礼を尽くして彼を遇しましたが、「希望通り」切腹させます。千々岩の脇差が竹光であることを承知の上でさせた断行だったのです。 千々岩は苦しみながらも竹光で切腹し果てます。
それでも切腹するという半四郎に斎藤は望み通り切腹の場所を与えますが、彼は介錯人を指名します。それは千々岩を死に追いやった張本人たちで、事前に半四郎との決闘で髷を切り落とされ人前に出られない状態にした人物だったのです。
半四郎の目的を知った斎藤は彼を斬り捨てるように命じますが、手練れの半四郎は井伊家の家臣を斬りまくり、壮絶な最期を遂げます。
邦画「切腹」おすすめ度 ★★★★★
現代の政治社会を彷彿とさせるような武家社会の虚構と、いったいどちらが正しいのかといい意味で観るものを惹きつける良質な映画です。とかくサムライ精神を美化する作品が多い中、 武士道へのアンチテーゼがこめられた作品であるとされている珍しい作品。オススメです。
映画賞受賞歴/切腹
第17回毎日映画コンクール/切腹
- 日本映画大賞
第13回ブルーリボン賞/切腹
- 主演男優賞:仲代達矢
- 脚本賞:橋本忍
第36回(1962年)キネマ旬報ベストテン/切腹
- 第3位
カンヌ国際映画祭/切腹
- 審査員特別賞