初期作品「ARQ 時の牢獄」に見るNetflixオリジナル作品の特徴
2018年だけでオリジナルコンテンツに“1兆円以上”という莫大な予算を投入すると発表され、大きな話題を呼んでいるNetflix。
圧倒的な規模で各ジャンルの良作を作り続けているからこそ、「Netflixブランド」とも言える存在感が生み出されています。
そのコンテンツとしての質を保つ秘訣が、「ARQ 時の牢獄」の製作過程のように、「劇場公開には向かなくても埋もれている良質な脚本を、改めて発掘して映像化する」という手法で大いに発揮されています。
映画の裏に見える、“Netflixオリジナル”という新ジャンルの内面にも注目させてくれる初期の作品「ARQ 時の牢獄」からNetflixオリジナルブランドを見ていきます。
この記事のもくじ
Netflixオリジナル「ARQ 時の牢獄」概要
題名:ARQ 時の牢獄(2016年、アメリカ・カナダ)
原題:ARQ
監督:トニー・エリオット
キャスト:ロビー・アメル、レイチェル・テイラー、ショーン・ベンソン、グレイ・パウエル
その他:2016年トロント国際映画祭のディスカバリー部門で初上映
Netflixオリジナル「ARQ 時の牢獄」あらすじ
世界が巨大企業「トーラス」と反乱軍「ブロック」に二分されて支配されている近未来。トーラスで研究員として働いていたレントン(ロビー・アメル)は、研究物である永久機関「ARQ」を盗み、逃げ出して元恋人であるハンナ(レイチェル・テイラー)のもとへと隠れる。
ところが、レントンがハンナの家で目を覚ました朝、トーラスの刺客である男たちがレントンを確保しに来る。レントンは逃げ出したものの、転倒して首を折り、死んでしまうのだった。
その後、何故かレントンは朝目覚めたときに戻っており、その後も刺客たちの襲撃と自分の死をくり返す。事態がどんどん複雑化していくなか、レントンは時間のループの原因が「ARQ」にあると考え、ループを抜け出す方法を探していく。
コアなSF映画としてハイクオリティな仕上がり「ARQ時の牢獄」
「ARQ 時の牢獄」は、同じ時間をくり返す「ループもの」と呼ばれるタイプのSF映画で、ストーリー展開の凝り方など、SF映画の中でも複雑で難解なテイストに仕上がっています。
Netflixオリジナルの中でも初期の作品として作られた「ARQ 時の牢獄」ですが、この作品が製作された2016年ころは、「動画配信サービスのオリジナルコンテンツ」というのはまだまだマイナーな存在で、有名大作のスピンオフだったり、ドラマの延長線のような作品だったりと、あくまでおまけコンテンツの扱いでした。
そんな中で、Netflixオリジナルの「ARQ 時の牢獄」は、SF色が強くあまり一般受けしそうにないコアな作風に仕上がっています。同時期の他のNetflixオリジナル映画も、それぞれのジャンルの色を強く反映していて、最初から一本の「映画」として作り込まれています。
このオリジナルコンテンツに対する取り組みの違いは、今ではNetflixと他のVODサービス(Hulu、Amazonプライムなど)の決定的な違いになっています。オリジナル映画についてのNetflixの確固たる姿勢を表した一本が、まだNetflixオリジナルの黎明期に公開された「ARQ 時の牢獄」だと言えます。
マニアックな脚本の豪華な映像化「Netflixオリジナル」というジャンル
「ARQ 時の牢獄」は、元々2008年に脚本が執筆された作品でした。それが映像化されることなく時間が経ち、Netflixが脚本の作者で映画の監督でもあるトニー・エリオットに映画化を呼びかけ、2016年に配信されるに至ったそうです。
このように、Netflixオリジナル映画は、「良質な脚本ながら、ややマニアックなため映像化までは進んでいなかった作品」を発掘して仕上げる、という過程で生まれた作品が多くなっています。
配信作品なので劇場公開作ほど「集客・興行」を気にしなくていいという面もあるのか、多くの映画が豪華な映像やキャストを揃えながらも、コアな作風に寄っています。
「各ジャンルごとにコアな良作を揃えて自社コンテンツを充実させていく」という手法で、「Netflixオリジナル」という新しい映画のかたちが作り上げられていると言えるでしょう。